書評 法律と数字を苦にせず読める残業代のイロハ

 

「労働の科学」2018年7月号掲載(発行所:大原記念労働科学研究所)

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友弘克幸著:よくわかる未払い残業代請求のキホン
四六版/本文200頁/1,500円+税/978-4-86319-609-4
発行所:労働調査会
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労働者が残業代など未払賃金を請求するのは,たいてい退職後である。相談先や請求方法が労基署,弁護士,労働審判,労働組合のいずれにおいてもそうである。これは在職中に請求すると経営者との関係が気まずくなるからである。未払賃金が横行している職場では,退職をめぐるトラブルも多く,労働者は復讐を兼ねて退職後に請求することになる。
請求が退職後になるとしても,労働者は残業代が支払われていないことを肌で感じている。ただ,その計算のやり方や請求の仕方に詳しくないだけである。他方,経営側は未払残業があることを認識していないか,あるいは知らない振りをする。これは中小企業にとどまらない。大阪府教育委員会は官公庁でありながら,非常勤講師に残業代を支払わないのが通例である。組合との団交でも未払残業を否定するため,労基署への申告が行われ,勧告が出されてようやく支払うことになる。それでも,1コマ(50分)未満の残業代は切り捨てる,例規がないから遅延利息は支払わないという対応をとる。
本書は,多くの労働事件を手がけてきた弁護士が残業代請求の法律・制度及びノウハウについて解説したものである。法律と数字は,それを見るだけで拒否反応を起こしかねないものだが,本書はそれをうまくかわしている。
残業代が発生するパターン,残業代が支払われない契約や制度,残業代の計算方法そして請求方法について,まずは日常会話による相談と回答を紹介し,次に回答を法律知識で解説し,そしてポイントをおさらいする,このように叙述される。時にはクイズが挿入され,読者をハッとさせる。読者にとってはダブルチェック,トリプルチェックとなり,項目ごとに復習することになる。そのうえ,意外に若い著者のセンスが読者を引きつける。残業代を取り戻したい若者をターゲットにした文体である。残業代請求の時効についての詳しい説明は読者を弁護士等への相談に走らせるだろう。他の実用書,専門書にない本書の特徴である。
さて本書も,残業代計算の基礎に含まれる手当と除外される手当をとりあげているが,近年賃金の内訳が複雑になってきている。とりわけ,成果主義の導入によって賃金が労働時間から切り離され,残業代計算も一筋縄ではいかなくなった。安倍内閣が提案した「働き方改革-高度プロフェッショナル制度」などは残業代の概念をなくすものである。とはいえ,成果給や高プロが適用される労働者は少数にとどまり,ほとんどが労働時間規制の対象者であり,労働時間と賃金が連動している。
評者は,労働力はレンタル商品であり,その価格が賃金であると考えている。この商品を経営者が購入して使用(消費)する,その契約が労働契約・雇用契約である。契約には1日の使用時間が定められている。だから,時間外に使用する場合は,その商品の売り手の同意が必要だし,使用した時間分の追加代金を支払わなければならない。商取引のエキスパートである経営者にとっては自明のことである。
本書は,労働者が残業代を請求するために書かれたものであるが,請求されるまでもなく支払うための基礎知識とノウハウを経営者が学ぶにふさわしい書でもある。残業代が適切に支払われることになれば,労働者の労働意欲が高まること間違いないのだから。

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