コロナ危機に乗じて「成果にもとづく労働法制」

 コロナ危機への対処のために在宅勤務・テレワークが導入されている。これに乗じて、労働法制の見直しを提唱する動きがある。例えば、新経済連盟は時間・事業場を前提とした労働法制の見直しを提言する(https://jane.or.jp/app/wp-content/uploads/2020/06/20200605document.pdf)。また、竹中平蔵は「日本の賃金は労働時間で決められているが、在宅勤務では時間が計りにくい。このため時間ではなく仕事の成果に対して報酬が払われるように労働法制を見直さなければならない」と主張する(2020.7.24日本経済新聞)。
 たしかに在宅勤務・テレワークは導入されているが、事務・営業職にとどまり、労働者全体に占める割合は高くない。東京都の2020.4緊急調査でも30%ほどであり(https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/05/12/documents/10.pdf)、全事業あるいは大都市以外を含めると、1割にも満たないと推測される。このような極めて少ない労働者の働き方にあわせて労働法制を見直すことは適切ではない。また、営業職の働き方が、厳しい労働時間規制をうけているとはいえない。工場労働と異なって、ある程度の時間的裁量がなければ営業職は務まらない。この営業職に在宅勤務・テレワークが入るからといって、すべての職種に労働時間に基づかない賃金制度を導入することはかえって混乱を呼び起こすだけである。
 次に、賃金が労働時間に基づいていることには経済的合理性がある。
 賃金は労働力商品の価格であり、労働力はレンタル商品である。このレンタル商品を使用(消費)する客観的・公正な基準は万人に共通する時間に置くしかない。それはレンタカーと同じである。出来高賃金や歩合給も、労働時間賃金の亜種である。そして商品を購入するときには価格が決められているように、労働する前に賃金は決定している(計算できる)のである。賃金を成果に基づいて決定するとなれば、労働力は商品でなくなる。成果に基づく報酬とは、資本主義システムからの逸脱であり、資本主義をやめない限り実現できるものではない。

  トヨタ、定昇完全成果型に?
 8月末新聞各社は、トヨタ自動車が一律定昇を見直し、成果型賃金に移行すると一斉に報道した。現在、労働組合に提案を行っており、合意が得られれば来年から実施するという。
 その内容を見ると、現在の「職能基準給」と「職能個人給」を「職能給」に統合して、査定による昇給に一本化するため、低い評価を受けると定期昇給がゼロになる可能性もあるという。つまり、定期昇給を査定で決めるというのだ。
 この査定を昇給に反映されることは、これまでも行われてきたことであり、トヨタに限らず多くの企業が導入している。定期昇給(給料表)がない企業では、査定が大きな割合を占めると言っても過言でない。このように昇給に査定が反映する賃金は、職能給あるいは能力主義賃金と呼ばれ、成果主義賃金とは別物である。なぜなら成果主義賃金とは、成果によってボーナスが決定されるなど、成果の評価が当期の賃金に反映するものだからである。昇給という次期賃金への査定の反映は、成果主義賃金ではない。
 報道各社がトヨタ定昇を成果型・成果主義と呼ぶのは間違っているか、あるいは他に意図があるかだ。

 参考資料

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63124550X20C20A8000000/

 https://neoyamashita.kagoyacloud.com/wp-content/uploads/2019/09/050ff0fc7e35a8a556bc740df729f98d.pdf (拙文「労働組合の本質」38頁)

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