ALT(会計年度任用職員)が公平委に対して共同措置要求

 兵庫県尼崎市立学校に働くALT(外国人外国語指導助手)らが、尼崎市公平委員会に対して、地方公務員法第46条に基づく勤務条件に関する措置を要求した。要求する措置は、職員同様に人事院勧告に沿った賃金と一時金引上げである。
 

  給料表がない会計年度任用職員

 ALTは非常勤職員であり、従前は地公法3-3-3が所定する特別職地方公務員であったが、2020年地公法改正によって会計年度任用職員に地位変更され一般職地方公務員になった。この一般職地方公務員の給与は、生計費・国及び他の地方公共団体並びに民間事業の給与等を考慮して定め、給与、勤務時間その他の勤務条件は条例で定められる(地公法24条)。給与は給料と諸手当からなる。給料は正規の勤務時間(1週間当たり38時間45分)に対する報酬であり、職種・職位及び勤続年数等によって等級・号給を定めたものが給料表である。勤務時間が正規の勤務時間に満たない非常勤職員には、給与ではなく報酬が支給される。したがって、非常勤職員には給料表は適用されない。国の非常勤職員にも俸給表は適用されない(人事院)。

  「給料表がないから賃上げしない」

 日本の労働者の賃金がOECDの中でも際立って低いことを筆者は先に示した。(https://neoyamashita.kagoyacloud.com/2023/02/27/payrise/

 日本政府、経団連、連合がそろって賃上げを唱和するのにあわせて、人事院は国家公務員の賃上げを勧告し、総務省は地方公務員の賃上げを行うように地方自治体を指導した。正規職だけでなく、会計年度任用職員を含めた非常勤職員も正規に合わせるようにとわざわざ明記した。
 しかし、尼崎市をはじめとした地方自治体は、ALTの報酬引き上げを行っていない。尼崎市はその理由として、ALTには給料表が適用されないからだという。たしかに、人事院(人事委員会)は、給料表の改定によって賃上げを行うことを勧告している。しかし同時に、給料表が適用されない非常勤職員などには、時間給(日給)に対して給料表改定率を適用して賃上げを実施している。
 尼崎市はそもそも給料表が適用できない法制度(条例・規則)のもとで、非常勤職員であるALTを雇用(任用)しておいて、給料表が適用されていないから賃上げができないという。ALTは月額で報酬が支給されているのであるから、その月額に給料表改定率を適用すれば賃上げは問題なく実施できるのである。尼崎市の賃上げ拒否理由に合理性はない。

  労働基本権制約の代償

 一般職地方公務員は地公法37条によって争議行為が禁止されている。ストライキ権が剥奪されているのである。「一般職の地方公務員が労組法3条の労働者であることを前提として、その従事する職務の特殊性から、労働基本権について合理的な範囲で制限をし、他方で、それに応じた範囲内で労働基本権の保護」が規定されているのである(東京高裁判決)。
 労働基本権が制約されている代償として、人事院勧告制度があるとされる。つまり、民間企業との比較において賃金格差が生じた場合、人事院が国家公務員の賃金引上げの勧告を行い、政府は国会に計って賃上げを実施する制度である。地方自治体の場合は、人事委員会制度がつくられている。この人事院(人事委員会)勧告制度があるから、公務員はストライキを行わなくても賃金・労働条件が保障されるというのである。

  措置要求の必然性

 ストライキ権をはじめとする労働基本権制約の代償措置である人事院(人事委員会)勧告が実施されないとなれば、スト権の行使が認められなければならない。かつて、尼崎市ALTたちも賃金引き下げ提案に対して、ストで闘った。その結果、15%賃下げ提案が、12%にとどまった。今回は、賃上げ人勧が実施されないのであるから、理論上はストで賃上げを実現することになる。
 一般職地方公務員は、その賃金・労働条件に関し、人事委員会(公平委員会)に対して、地方公共団体の当局により適当な措置が執られるべきことを要求することができる(地公法46条)。人事委員会は都道府県及び政令指定都市に設置され、それ以外の地方公共団体には公平委員会が設置されている。ALTなどは会計年度任用職員という一般職地方公務員に地位変更されたことから、措置要求が行えることとなった。
 尼崎市公平委員会がALTの措置要求に対して、どのような判定を行うのか注目される。公平委員会委員には月額報酬が支給されており、給料表は適用されていない。給料表が適用されないから賃上げができないという理由が認められれば、公平委員会委員も未来永劫報酬は上げられないことになる。

 ALTのような雇用形態の非常勤職員を一般職に地位変更することに無理がある。非常勤職員の労働条件は劣悪であるうえに、労働基本権が制約されているのだから、各地で措置要求が起きる可能性は大きい。地公法はそのような事態を想定していない。

 人間も含めてあらゆる動植物は、外敵には強いが内から攻められると弱い。日本政府はスト権を剥奪して地公法の内部に取り込んだつもりだろうが、ALTなど非常勤職員は地公法を内から食い破っていくであろう。

 

 ALTの賃上げ闘争の現状については、筆者が属している大阪教育合同労組のHPが詳しい。

https://www.ewaosaka.org/subject-2/alt/#amaga

https://www.ewaosaka.org/home-2-2/

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