ウクライナ戦争終結の方法と課題Ⅱ
3月にこのブログでも提唱した「ウクライナ戦争終結の方法と課題」に対して疑問・意見が寄せられた。提唱がレジュメだったことで説明不足の感は否めないので、ここに補足を兼ねて反論する(朱書き)。
-山下レジュメについて-
1、戦争の性格について 資本主義国家間の戦争としていますが、言葉としては資本主義でなく市場経済と言うことを使えば、ほとんどの国は市場経済でやっています。戦争の20世紀を超えて「軍事力で国境を変えてはならない」という国際的な合意が成立しました。国連の常任理事国のロシアはそれを踏みにじったわけで、だから141カ国から糾弾されています。この戦争の性格を「資本主義国家間の戦争」と言うには、もう少し厳密な分析が必要だと思います。というのは、そういうことで、どっちもどっちという風に聞こえるからです。
①いまだ世界には植民地解放戦争(占領地解放ともいえます)があります。ウクライナ戦争はウクラ
イナのロシアからの植民地解放戦争ではありません。資本主義国家間戦争という性格規定をするこ
とで戦争に反対する方針がはっきりします。資本主義国ロシア対資本主義国ウクライナ(その背後
にNATO諸国)の戦争です。ロシアが侵略したという事実の背後・動機に何があったのかを検証する
必要がありますが、まだデータが出そろっていません。少なくとも20世紀にみられた植民地化して
資源確保・奴隷労働をもって利益を上げるためという目的ではないと思います。
②「軍事力で国境を変えてはならない」あるいは「力による現状変更を認めない」は既存国家の願望
であり、生命線です。国家は主権を守るために、外と内からの現状変更を認めません。それは「軍
事力」「力」でない場合であっても認めません。しかし、この「(力による)現状変更を認めな
い」を普遍的基準としてしまえば、国家主権に挑戦する「革命」は成り立ちません。
③「内」から現状を変更しようとする地域(リージョン)の分離独立については、最後の5、で述べま
す。
2、革命的祖国敗北主義の実践について
その後のソ連の歴史を見たときに、そんなにきれい事で済ませられるのか、と思います。当時は、戦争による国内の疲弊と帝政の矛盾が吹き出てきた時期で、そのスローガンが革命に有利だと踏んだからそのスローガンで革命を行ったともいえます。
①私の意見は100年前の「革命的祖国敗北主義」は今日には通用しないというものです。100年前は、
自国政府打倒-社会主義政権樹立という明確な目標がありました。今は祖国敗北主義に代わる基準
を作る時でしょう。
②その基準として、「戦争を選択した政権の即刻退陣」を提唱します。これは人権を国家の上位にお
いて「お国のために死ぬ」というイデオロギーから訣別するものです。
③西側諸国では左翼も含めて戦争においてウクライナを支援するという意見が圧倒的です。攻撃力の
ある武器をウクライナに送るなどという意見は、戦争が続いてウクライナ(そしてロシア)の人び
とが死ぬことに無頓着です。何より左翼が「祖国防衛主義」になっているのを見ると、100年前のカ
ウツキーあるいは第2インターにまで後退したのかと驚きます。「祖国防衛」=ナショナリズムに逆
らうことは困難だとは思いますが、そこは左翼の生命線ではないでしょうか。
3、プーチン・ゼレンスキーともに退陣 について
侵略する側とされる側を同一線上で並べることについては同意できません。
「徹底抗戦で命を犠牲にすることは許さない」について、
確かに、大変な民間人の犠牲が出ています。だからといって、ゼレンスキー政権に武器を置け、というのは、ロシアに降伏しろ、ということになります。そう言っているわけではないと思いますが、現実にはそうしかならないわけで、現実の政治のスローガン、政策としては成立しないとしか思えません。
①「侵略する側とされる側」については、データが不足しているために断定はできません。私は、ど
ちら側であっても戦争を選択したら即アウトという基準を適用せよと言っています。
②私は「ロシアに降伏せよ」とは言っていませんが、死ぬこと・殺されることに比べれば降伏を薦め
ます。私が沖縄から学んだことは「命どぅ宝」です。そして国や軍隊は住民を守らないということ
です。ウクライナでもロシアでも大統領や閣僚は生き延び、死ぬのは普通の人びとです。
4、軍事支援も同様です。日本が軍事支援することはダメだと思いますが、現実のウクライナ政権を支えるには軍事支援が必要です。NATO諸国がやることについて、やるな、とはよう言えません。軍事支援がなければ当然ウクライナは負けるのですから・・。
この意見は、筆が滑っていませんか?
5、インターリージョナル主義について
数百年後の人が、過去こんなことを言った先見の明のある人がいたんだ、となるのでは・・。
カタルーニャもそうですが、クルド人が自分たちの意思とは別に国境線を引かれ、自治を求めた闘いに対してテロ組織などと非難されているのを見ると、悲しく難しい問題だと改めて思います。
山下さんと私の違いは、理想を追い求める山下さんと現実的な政策を考える私、と言うことではないでしょうか?
①リージョナリズムについて「国家はいらない」を上梓した時、親しくしていた設計士さんが「ほんま
に賛成や。しかし2~300年かかるな」と言ってくれました。それから25年経っていますから、
もう少しです。
②というのも、各地で国家から分離独立する実践が始まっているからです。ご存じのようにスコットラ
ンドは来年に住民投票をおこなうスケジュールを立てています。カタルーニャは2017年住民投票
の結果を生かすために先週「亡命政府」を樹立しました。フランスでは、コルシカ島独立運動の指導
者がこの3月に獄死させられたため、島民が抗議暴動をおこしています。またカリブ海の植民地グア
ドループ、マルティニークでも反フランス暴動が2021-2022年に起きており、ニューカレドニアでは
3回目の住民投票が昨年12月におこなわれました(40%投票率で96%がノー)。
ヨーロッパ各地には分離独立をめざす地域が多数存在しますが、また別の機会に触れます。
③今回のウクライナ戦争の発端となったのはロシアによるドネツク人民共和国、ルハンスク人民共和国
の承認と集団的自衛権行使としてのウクライナ軍事侵攻です。この二つの人民共和国は2014年に
住民投票で独立を宣言したものです(このあたりについては戦争でウクライナ側に立つ専門家も認
めています-下記参考文献)。独立宣言から8年間ウクライナ軍との戦争状態にありましたが、ロシ
アが国家承認したのは今年2月です。
そのロシア連邦内にあるタタールスタン共和国がロシアからの独立を志向しているとも言われていま
す。また、グルジア、モルドバ内にも独立志向(ロシア連邦加盟)の地域があります。
④ウクライナ停戦交渉において、このドンバス2地域の独立について国民投票をするとウクライナ側が
条件提示していると言われています。おこなわれるべきは当該地域の住民投票であって国民投票では
ありません。自分たちの将来は自分たちが決める自己決定というのが各地域で共有されている考え方
です。
これらの分離独立を求める地域に対して、当該国は軍事力であろうが、選挙であろうが「現状変更」
を認めません。カタルーニャのように住民投票がスペイン警察によって弾圧され、投獄・亡命させら
れているところもあります。来年予定されているスコットランドの住民投票をイギリスが容認するか
注目されます。
今行われているフランス大統領選挙にあたり、フランスの学者は地域の分離独立問題を次のように分
析しています、「極右も極左も分権に反対であり、中道の政治はかれら次第である」。
⑤はたして、私のリージョナリズムについて「理想論」として賛成してくれたようですが、分権につい
ての立場はフランスの極左・極右と異なるでしょうか。
参考文献
「クリミア問題徹底解明」(2014.中津隆司著、ドニエプル出版、500円)
「マイダン革命はなぜ起こったか」(2019、岡部芳彦著、ドニエプル出版、500円)-著者はウクライナ研究会会長(国際ウクライナ学会日本支部)