コロナ危機を乗り越えるための提言-要求型より持ち寄り型を!
下記ブログは4月5日付け及び4月10日付けで行った提言に対する質問への答えを付加したものである(4月14日)。
さらに質問が寄せられたので、質問及び回答を追加する(4月19日)。
命が大事、仕事は休み、給料は働いて返す!
4月16日、東芝は新型コロナウイルス感染防止のために接触削減を目指して、支社、支店、営業所、工場等を含む国内拠点において、主に東京オリンピック時に予定していた休日を前倒しすることにより、4月20日~24日及び27日、28日を休日として、5月7日から営業開始することを発表した。連休を含めて19日間の休業である。会社指定の年次有給休暇、夏季休暇等を充当するとされる。 |
2020年4月10日
コロナ危機を乗り越えるための提言 - 要求型より持ち寄り型を!
山下 恒生
1.社会生活・経済活動を止める必要性
新型コロナウイルス感染症の治療方法が見つからないなかで、感染を防止するためには、人と人との接触を防ぐしかないのであろう。接触を防止するためには、人の交流を停止するしかない。交流を停止すると、社会生活及び経済活動が止まる。それでも、感染防止のためにはこの道を選ばなければならない。人間社会が滅びると、社会生活も経済活動も成り立たないからである。このような状況はコロナ危機と呼ぶにふさわしいものである。そして危機は1929年からの世界大恐慌を上回ると予想される。
では、社会生活及び経済活動を止めながらも、人々が生き延びる道はあるのか。それを考えるのが社会活動に関わる者、とりわけリーダーの役割である。そして、労働者のそれを考えるのが労働組合・労働運動家の使命である。
たしかに、連合をはじめいくつかの労働組合は新型コロナウイルス感染対策に関する要請やアピールを行っているが、国の財政支出による休業補償等を求めるものが多い。それは経団連の緊急提言においても同じである。しかし、国からの財政支出は将来において納税等で埋め戻さなくてはならない。すでに日本国家は102兆円規模の2020年度予算において収入の32%は新規国債発行でまかなうとしている。加えて、事業規模108兆円のコロナ対策緊急経済対策が出されたが、17兆円の新規国債発行が明らかにされている。国は借金するしか財源を持たないのである。
赤字国債等が増えても財政は破綻しないとするMMT理論によれば埋め戻しは不要なのだろうが、MMT理論はいまひとつ信用がなく、かつMMT論者からコロナ危機に対する積極的な提言が出てこない。コロナ危機はパンデミックという表現にふさわしい世界的危機になっているが、どの国家も有効な対策を出せないでいる。
住民から一番遠い政治単位である国家は、住民のいのちや暮らを襲う危機に対応する主体としては適していない。いわんや「国際社会」や「世界政府」をや、である。住民に一番近い地方自治体や州政府など地域(リージョン)が住民のニーズをよく把握しており、コロナ危機対策の実施主体として最も適している。地域(リージョン)の優位性については本提言の趣旨からはずれるので、僭越ながら拙ブログを紹介させていただく。
国を頼らない
新型コロナウイルス感染防止・撲滅を「戦争」と位置づけ、国家は中央集権化をすすめる傾向がある。しかし、戦争において国家が住民を守らないものであることは歴史的事実であり、沖縄戦をみればいっそう明らかである。このコロナ危機とのたたかいにおいて、国家に頼る轍を踏むことはできない。安倍政権を打倒すればコロナ危機を乗り越えられと考えるべきではない。どの政権であろうと国家は危機に対応できないことを肝に銘じ、国家に頼らない発想に切り替えるべきである。国に責任を取らせるような姿勢ではコロナ危機を乗り越える意識は育たず、コロナ危機以降の社会活動が心もとない。
危機を自らが引き受けることによって、危機を他人(外国や外国人など)に責任転嫁しないことである。
そこで長年の労働組合活動から得た教訓を踏まえて、2~3の提言を行いたい。
2.コロナ危機を乗り越えるための提言
<基本理念>
労働組合は組合員間の扶助あるいは連帯の側面を持って活動している。そこ
で培った相互扶助・社会的連帯の精神を発揮してコロナ危機を乗り越える。身
近な仲間の助け合いを重視し、国や行政への要求型でなく、持ち寄り型による
富の分配を実現する。
<基本方針>
新型コロナウイルスの感染防止と撃退策を優先させるために、社会生活及び
経済活動を停止させる。同時にいのちと暮らしという基本生活を維持し、コロ
ナ危機以降に備える。
<具体的方針>
(1)感染防止策
感染者の隔離と治療を最優先し、医療関係者の安全保護に最大限の注意を
払う。
人の移動を制限するため、医療等生活インフラ必須部門を除いた社会経済
活動を完全に停止させる。
施策の主体は地方自治体であり、検疫やロックダウンなど国がもつ権限を
地域に移譲する。
(2)生活防衛策
①経済活動
企業は経済活動停止期間中に
おいても内部留保金等を支出し
て通常通りの賃金を支給すると
ともに、商取引においては従前
どおりの取引契約料を支払う。
右表は財務省HPに掲載され
ている2017年度までの推移で
あるが、2019年2月現在で企
業全体の内部留保金は450兆円と財務省は推測している。日本政府はコ
ロナ対策緊急経済対策として17兆円の赤字国債を発行するとしている
が、企業内部留保金はその30倍近くもある。企業は常々「非常時に備え
るもの」と回答してきたが、いまが非常時である。まさに「いまでし
ょ!」。
内部留保金は大企業に集中しているが、大企業労働者の賃金支給だけ
でなく、取引先・下請け・サプライチェーンなどの中小企業への取引契
約料として支払うことによって、目に見える「トリクルダウン」現象が
起きる。
450兆円でどれくらいの期間をしのぐことができるか不明であるが、
450兆円で乗り切れないとすれば、もはや企業の存続も危ういといえ
る。それでも、内部留保金が枯渇した段階で公費による無利子貸付を行
い、企業活動再開後に返済する道もある。つまり、未来からの借金であ
る。
次に、労働者は埋め合わせ型有給休暇を取得して、企業活動再開と
ともに休暇時間分を労働で埋め合わせる。つまり、1か月休暇を取得す
るとすれば、8時間/日×22日として176時間を企業再開後に無給労働す
るのである。例えば、1日2時間、88日(4か月)時間外労働を行って、
埋め合わせるのである。
この埋め合わせ型有給休暇は正規・非正規や勤続年数にかかわりなく
適用が可能であることが年次有給休暇と異なるところである。また、労
基法26条休業手当あるいは雇用保険法失業給付が生活費に満たないこと
と比較して、かなり優れているといえる。
労働組合は、使用者に対して内部留保金支出・埋め合わせ型有給休暇
を要求して実現しよう。その成果を地域に広げよう。
内部留保金がない中小企業や個人事業主(自営業)の場合も、埋め合
わせ型取引をイメージして、その実現をめざそう。
②イベント等
経済活動と同様に停止するが、観客・ファンは通常通りにチケットを
購入する。イベント主催者は再開時にチケット購入分を埋め合わせる。
(3)その他・・・
労働やイベント以外の社会生活・経済活動については、それぞれ得意な人
たちが具体策を考えることになる。
3.スペインにみる国家と地域の危機対応
アメリカに次いで感染者が多いスペインでは、4月9日現在15万人が感染
し、15,000人が死亡している。
スペインは社労党・ポデモス左派連立政権が今年1月に誕生したが、国会内
では保守派、極右、独立派などが半数以上を占めているため、不安定な政権で
ある。
サンチェス首相が国家非常事態宣言を行ったのは3月14日である。宣言に先
立って、スペイン政府は自治州との国家・自治州共同宣言を提案したが、カタ
ルーニャ州は共同宣言が感染防止ではなく中央集権化を狙ったものでしかない
として反対した。そして、独自にカタルーニャの地域封鎖を実行するととも
に、港、空港、列車の往来禁止をその権限をもつ中央政府に要請したが、中央
政府はこれを受け入れなかった。そしてカタルーニャ首相の公職追放を画策し
た。
そうこうするうちに、中央政府のおひざ元であるマドリードでは感染と死者
が増加し、スペイン全体の半数を占める事態が進行した。これには3月8日に
マドリードで8万人が集まった世界女性デーに参加した閣僚や首長たちも含ま
れていた。非常事態宣言から10日が経過したが、感染は拡大する一方であった
ため、先に国家・自治州共同宣言に署名した各自治州(保守国民党や社労党の
州首相を含む)もカタルーニャに続いて完全封鎖を中央政府に求めることとな
った。それでも、中央政府は全国封鎖に踏み切らず、いまのままで感染防止が
可能であると考え、中国企業から未公認のウイルス検査キット65万人分を入手
する失態を演じた。
各自治州からの抗議がさらに高まったため、サンチェス首相はついに3月30
日から4月9日まで2週間の全国封鎖を行うことにした。ライフライン及び生
活必須インフラ以外の職場は閉鎖された。そして、労働者は埋め合わせ型有給
休暇(recoverable paid leave)を行使し、企業は諸手当を含めて通常通りの
賃金を支払うとする法律–(英語解説)-を制定施行した。行使した有給休暇分
の労働時間は非常事態宣言が終了してから2020年12月31日までの間で埋め合
わされるが、埋め合わせの労働の詳細は労働組合(労働者代表)との協議で決
めるとされた。
4月9日、サンチェス連立政権は国家非常事態宣言を4月26日まで延期する
ことで国会承認を得たが、全国封鎖は徐々に解除するとしている。労働者には
徐々に職場に戻るように指示した。
しかし、カタルーニャ政府は全国封鎖の延長を要請し、中央政府が解除を決
定しても従わない意向を示している。
*スペイン情報はカタルーニャの窓口から見ているので、バイアスがかかっていることを断っておく。なお情報源は以下のとおり。
https://www.elnacional.cat/en/ https://www.catalannews.com/
提言に対する質問と答え
1.「持ち寄り型による富の分配」とは何を意味しているのでしょうか?相互扶助でしょうか?
「要求型」でなく「持ち寄り型」としたのは、ないものねだりをする時でなく、みんなが持っているものを出し合って危機を乗り越えることが大事だとのメッセージを送りたいからです。
完全封鎖が必要な時期にそれができないのは、経済を止めることによって賃金・収入がなくなるからということに尽きます。だから、賃金や収入を確保して完全封鎖を実行しようではないかとの呼びかけるのです。賃金や収入を確保する財源として企業内部留保金に目を付けました。まず、企業が内部留保金を放出する、企業再開時に労働者は労働力を、下請け等は生産物で埋め合わせるという方法です。それぞれの「富」を時間差で持ち寄ることを意味します。これを富の分配と表現しました。相互扶助はどちらかといえば、寄付・カンパというイメージがありますから、出せない人もあるとなってしまいます。それよりも、現在の生産関係を基礎にして、金、労働力、生産物を持ち寄ろうという考えです。うまく回れば、誰も損をしないし、得もしないが、危機は乗り越えられると考えます。
ただし、内部留保金の支出をアピールできるのは、そこで働く労働組合(労働者)だけです。当該企業に関係ないところは要求しにくいでしょう(せいぜい内部留保金への課税というぐらいです)。労働組合は経団連等に要請することは可能ですし、やることが期待されていると思います。
内部留保金が支出できれば、国の補助金等は雇用・自営関係にない弱者にまわすことができます。
2.「埋め合わせ型有給休暇」がスペインで実施されたそうですが、日本でこれを実施できる可能性はどの程度あるとお考えでしょうか?また日本で実現した場合、企業側に悪用されることを懸念する必要はないでしょうか?
コロナ危機に対する認識によると思います。東京都等は自粛を要請していますが、ロックダウンをする気はありません。労働者は感染を怖がりながらも出勤しています。労働組合は、組合員の自宅待機(自宅勤務)を要求して、「埋め合わせ型有給休暇」を要求すればよいと思います。ナショナルセンターが連名で要求すれば世論を喚起することになり、組合がない企業に拡大する可能性があります。
企業再開後に埋め合わせ無給労働をするとなると、従前の「未払残業」がなくなる副産物がうまれることでしょう。
3-1.埋め合わせ型有給休暇の賃金ですが、賃金の100%が保障されるのでしょうか? 埋め合わせる方法はどう考えますか? 雇用調整助成金制度があるなかで埋め合わせ型有給休暇制度を積極的に導入する意義はあるでしょうか?
埋め合わせ型有給休暇は、後日に無給労働で埋め合わせするものですから、企業も当座の資金があれば対応できます。それでも「金がない」との言い訳が聞こえそうなので、内部留保があるではないかと、予め提案しています。それでも2週間、1ヶ月分の賃金支払いができない企業もあると思われますから、企業間の「埋め合わせ型取引」を提言しています。これは中小・零細企業経営者が知恵を出し合うことだと思います。下請けや取引先企業がつぶれれば、大企業も再開後の企業活動ができなくなるはずです。
埋め合わせ型有給休暇は労基法26条休業手当、雇用保険失業給付とは異なり、あるいは雇用調整助成金に関わりなく、通常の賃金を支給するものですから、生活を圧迫することはありません。またこのアイデアは、国や地方自治体の助成金や補償金ではなく、国家に過度に依存しないで、企業と労働組合(労使関係)で生活を保障して危機を乗り越えようというものです。
公務職場では当面賃金カットがないと思われますが、すでに国会議員の報酬を下げろなどという声が出てきていますから、自宅勤務・待機の公務員にも向かってくることも考えられます。だから、民間企業でスピード感をもって埋め合わせ型有給休暇の導入を実現したいのです。
3-2.労基法39条を根拠とする年次有給休暇とは別物の、新たな「有給の特別休暇」ということになるのですか?
労基法が定める年次有給休暇とは別物です。特別休暇という括りになるかどうかは企業ごとで異なると思いますし、「埋め合わせ」をするので「休暇」という範疇に入れる必要もないかもしれません。「休日の振替」という捉え方もできます。緊急非常時の対策なので現行法令から考えることは無理かもしれません。スペインは新しく法律を制定したのです。
3-3.休業補償に触れず、使用者責任に依拠するよりは休暇という労働者の権利行使という観点の方がいいから、ということでしょうか?
上記のとおり「休暇」であるとは決めていません。休業手当、失業給付と違って、賃金が満額支給されるということが第一です。休業手当6割程度では最低賃金で働いている非正規労働者は生活できないでしょう。また、「埋め合わせる」ということでコロナ危機を自分のものとして対応する意識を持てるようにとも考えています。つまり休暇でもなく、権利でもない、社会を構成する一員としての「持ち寄り」です。
4.国家ではなくリージョンでコロナ対策を、という考え方を日本で実践に移す場合に、例えば何をさせることがリアリティがあるでしょうか?基礎自治体である市町村に何をさせればいいでしょうか。
先日、空港で検疫なしに入国したというニュースが流れていました。ブログにも書きましたが、人が海外から入ってくるのは「国」ではなく「地域」なのです。人が全国を飛び回ることはなく、必ずどこかの地域にいます。感染については、その地域が一番敏感になります。空港検疫であれば、検疫官を国家公務員ではなく当該地域の地方公務員にすれば、検疫パスなどは起きてこないでしょう。
PCR検査についても、地域に権限を持たせたほうが、医療体制との関係からも効果的です。スペイン政府が中国大使館のアドバイスも聞かずに、まがい物のPCRキットを購入したことを伝えましたが、その後は韓国産とシンガポール産を輸入したということです。高かったそうですが。
リージョンの優位性を垣間見たのが、休業要請に関する東京都と国との対立でした。小池知事の及び腰から際立ちませんでしたが、ロックダウンの権限を地域(リージョン)が持つならば、コロナ危機対策は格段に進むはずです。
基礎自治体の首長・職員は自分で責任を取る手法になれていません。だから歩きながら意識を変えていかなければなりませんが、住民のいのちと暮らしを守るという視点からコロナ危機に対処すべきと思います。前例のないコロナ危機なのですから、失敗しても構わないから大胆な施策を出すべきでしょう。例えば、ドライブスルー方式のPCR検査を全住民に行うことなどです。
この質問については、この間コロナ危機に対応してきた市職員から様々な意見・アイデアが出てくると思います。