米最高裁がエージェンシー・ショップに違憲判決-非組合員からの組合費徴収困難に

 

2018年6月27日、米最高裁は、非組合員からの一定割合の組合費を天引きして組合に渡すイリノイ州法、いわゆるエージェンシー・フィー(代理費、agency feeあるいはagency shop)が米憲法修正第1条に違反するとの判決を行った。最高裁判事は9人で構成されるが、本判決は5人の判事が賛成し、4人が反対した。
(なお法律専門家でないため、最高裁判決の読み間違いがあるかもしれない)

事案の概要は次のとおり
・イリノイ州では公務員の組合加入が認められ、労働者の過半数が承認すれば、組合は全職員を代表して団体交渉ができる。個々の職員は他の代理人や自分自身で交渉はできない。
・非組合員は団体交渉にかかる組合費分をagency feeとして支払うことが求められる。その比率は組合費総額の78.06%である(月44.58ドル、年535ドル)
・原告マーク・ヤヌスはイリノイ州健康管理家族サービス局に勤務する子ども保護専門家であり、組合はAFSCME31(全米自治体労組31支部)でイリノイ州35,000人の職員を代表して交渉する立場である
・原告はイリノイ州民として州が財政危機にあるにもかかわらず賃金要求をするとの理由で組合に加入していない。そして、非組合員からagency feeを天引きするイリノイ州法は、非組合員に政治的発言を強制することになるから合衆国憲法違反だと連邦地裁に提訴したが、連邦地裁、控訴審ともに最高裁判例(Abood判決)にそって州法が合憲としたので、最高裁に上訴した

判決の概要は次のとおり
・非組合員からagency feeを天引きするイリノイ州法は、賛成していない組合員に費用の支払を強制するものだから、個人の言論の自由を侵害しており、「合衆国議会は、言論・出版の自由を奪う法律を制定してはならない」と定めた修正第1条に違反する
・その理由と論点は以下のとおり
・1977年Abood判例を適用することは今日有効ではない
・Abood事件においては、2つ以上の組合と交渉することによる混乱を避ける「労使平和」の利益に叶うことからagency fee(agency-shop)が認められた。組合間競争、労働者間の不和、複数組合からの異なった要求への対応は非効率だから。
・2つ以上の組合ができたとしてもAbood事件が想定したことは起きそうもない
・連邦法では多数組合の排他的交渉は認めているが、agency feeまでは認めていない。
・それでも連邦(国家)公務員の27%は組合に加入している。郵便労働者にもagency feeが認められていないが、40万人が組合員である。agency feeを認めていない28州でも組合が排他的交渉を行っている
・労使平和はagency feeではなく団結権を認めることによって達成される
・被告はフリーライダー(ただ乗り)との批判をするが、原告は行き先が同じならフリーライダーといわれても仕方がないが、違うバスに乗っていると主張している
・裁判所としては、フリーライダー(ただ乗り)批判を避けたいがために、言論の自由を放棄してもよいとは考えない
・組合はagency feeがなくても排他的交渉制度によって全職員のために交渉するし、排他的交渉組合に承認されることは組合費のチェックオフができるなど組合にも大きな利益をもたらす
・agency feeは労使平和・ただ乗り禁止とは次元が異なる
・州は使用者として職員の言論を統制することはできない
・公的部門のagency-shopは修正第1条に違反する
・判例準拠-先例拘束性の原則があるが、民間部門と違って公的部門の団交は内在的に政治的である。使用者の意思決定は政治プロセスである
・団交議題が政治がらみなので、非組合員のagency feeは政治にも使用されることとなり、これを支払えというのは、言論制限となり違憲である
・Aboodケースは1977年に起こされ、公務員の団交を最初に認めた州はウィスコンシンで1959年なので、当時としては珍しいものだった
・自治体の公的支出の増加は倒産にもつながりかねず、Aboodは予想できなかった
・agency feeを認めないことが労働協約締結の労使信頼を壊すからといって非組合員の修正1条違反を認めることはできない
・組合が41年間も受け取ってきたのは「棚ぼた」といえる
・修正1条に反する非組合員からのagency feeがどれ位組合に渡ったかを計ることは困難だ。こんな憲法違反の取り立てが無期限に続けられてよいはずがない
・以上から、州及び公務員組合はもはや合意なしに職員から組合費を控除してはならない
・非組合員からの自動控除はしてはならないし、同意なしに徴収してはならない
・同意は明確な証拠に残さなければならない
・この判決にそって、事件は差し戻し審理されるべき

少数意見の概要は次のとおり
・41年間続いた労使関係基準を壊すことになる
・排他的交渉組合は全従業員のために活動するのであるから、費用はフェアに分担されるべき。最高裁多数派が修正1条をもって費用分担を否定するのは問題だ、かつフェア・シェアなしに組合には全従業員のために活動せよというのは矛盾している
・排他的交渉組合になれば、フェア・シェアがなくてもそれ以上の利益を得るというが、活動費がなくてなぜ全従業員を代表した活動ができるのか
・判例にこだわるのは、それが法の支配の礎石だから
・Aboodは団交費用と政治活動の区別の基準を示して、40年間引用されてきた
・22州ではagency feeを法定している。この判決がでれば他の州でも法律を改正しなければならないが、多数派は「裁判所の知ったことでない」という。数百万人に適用されている数千の労働協約があるのをどうするのだ。分離取扱条項をもたない労働協約があることを考えると、これまでの団交の努力を台無しにするものだ。
・agency feeを認めている22州は、それが良好な労使関係をつくり公共サービスをよいものとしていると言い、agency feeを認めていない28州は、それが強い組合をつくり州財政を脅かすと言う。この賛否についてアメリカ人はずっと議論してきた。その健康な議論が終わった
・しかし、すべての人間活動には言論の自由がついてまわる。多数派の道は遠い。修正第1条はより良いものであるはずだ。それは、公務員労働組合の役割を含む民主的なガバナンスを掘り崩すものでなく保護するものでなければならない。

判決への反応
・AFSCME(組合員160万人)はじめ公務員組合は最高裁判決を批判し、組合を脱退しないキャンペーンを開始
・AFSCMEのアンケートによれば、判決を機会にagency feeを払わないという非組合員は多くない

判決の分析
・日本では馴染みのないagency fee(agency-shop)であるが、組合の団体交渉や活動によって賃金や労働条件が改善されている場合は、非組合員も相応の分担をすべきだろう
・過半数労働者の承認で排他的交渉が可能になることは、少数組合は交渉権を行使できない問題が起きる(複数労働組合の問題)
・本件訴訟は、最初にイリノイ州知事が州法の違憲訴訟を起こしたことに付随するものである。知事による違憲訴訟は、公務員組合バッシングと軌を一にするもので、日本の橋下元大阪市長・維新政治と同様の動きである。
・本判決がどのように波及するかを追いかけながら、更なる分析をすることが必要。
なお、排他的交渉制度及びエージェンシー・ショップ制度については、本ブログ「労働運動・労働組合」ページ所収「労働組合の本質」63頁参照。

参考記事
https://www.supremecourt.gov/opinions/17pdf/16-1466_2b3j.pdf (判決)

http://www.afscme31.org/news/supreme-court-rules-against-working-people