スペイン組閣混乱とカタルーニャ独立運動の新展開

 7月21日、スペイン総選挙が行われた。8月17日に海外などからの票が集約され、定数350の下院議席は次のように確定した。サンチェス現政権支持:社労党121、Sumar(旧ポデモス)31、ERC 7、Bildu6、PNV5, Galician nationalists the BNG1、合計171。野党右派: PP137、 Vox33、Unió del Poble Navarrès1、合計171。Coalició Canària 1は右派寄りだが態度未定であり、カタルーニャ独立派Junts7の議席が鍵を握ることとなった。
 そこで社労党は、まず議会議長に前バレアレス諸島大統領アルメンゴルを候補に立て、カタルーニャ語、バスク語、ガリシア語をEUの公用語として申請することで、Juntsの支持を求めた。プッチダモンは文書化が必要としたことから、スペイン外相は公式にEUに申請した。これをもって178票の過半数でアルメンゴルが議長に選出された。
 EU理事会は9月19日に公用語化の審議する。他方、スペイン国会でも公用語化が検討され、新議長の提案でカタルーニャ語、バスク語、ガリシア語にアラン語が加えられて公用語となった。

  EU理事会が審議延期

 9月19日にカタルーニャ語等の公用語化を審議することとなっていたEU理事会(回り持ち議長はスペイン)は、スウェーデンとフィンランドからの慎重意見が出されたため、審議を延長することとなった。公用語化は加盟国の全員一致が条件となっており、従前は提案が否決されたことはなかった。しかし、今回は極右を政権に抱える加盟国からの通訳費用等コストがかかるという理由で異論が出されたため、10月に再審議することとなった。提案国のスペインはとりあえずカタルーニャ語だけの公用語化を求める方針となった。

  スペイン政府組閣の動きと独立派の戦略

 サンチェス連立政権は政権維持をはかるため、独立派Juntsの7票を必要としている。そこで9月4日、第2副首相であるヨランダ・ディアス(Sumar 旧ポデモス)をブリュッセルに派遣してJunts代表のプッチダモンと会談を行った。そこで「政治的紛争を解決するための民主的方法を探る」ことで合意した。
 これに対して、PPは政府要人が刑事事件逃亡者と会談することは大問題だと批判した。警察労働組合などは政府要人と刑事犯罪人の会合は治安維持に危機をもたらすと批判した。この批判に対して、サンチェス社労党はヨランダ・ディアス副首相としてではなくSumar旧ポデモスの代表として会談したものだと反論した。
 プッチダモン亡命大統領はサンチェス首相への信任投票の前提条件として、独立運動に敬意を払うこと、2017独立住民投票関係者への訴追をやめること、合意を管理検証する仕組みをつくることなどを提案した。恩赦法の制定については、欧州司法裁判所の判決がだされる予定であるから前提条件にはなっていない。
 この前提条件提示を受けて、スペイン政府報道官は「まだ国王からの立候補要請がないので答えらない」「憲法の枠、対話そして共存」を繰り返すのみである。スペインでは国王が第一党に首相に立候補することを要請して、国会で信任投票が行われる。第一党立候補者が過半数を得られない場合は、2次候補者に立候補を要請する仕組みである。
 プッチダモン提示の前提条件に対して、社労党旧幹部たちはおしなべて、憲法に反する、クーデター首謀を認めるものと反対を表明し、PPとの連立を唱えることさえ訴えている。

  カタルーニャ独立のモデル

 9月20日、プッチダモンはカタルーニャ独立のモデルとして、1998年北アイルランドのベルファスト合意(聖金曜日協定Good Friday Agreement)を示した。北アイルランドは、いわゆる植民地ではなく、1960年代-1970年代の植民地解放運動の原理があてはまるものではなく、カタルーニャ独立と共通性があるとの認識である。 

 Diadaカタルーニャの日に80万人がデモ

         出典: Assemblea Nacional Catalana https://assemblea.cat/

 9月11日はカタルーニャの日であり、毎年、1714年にカタルーニャが征服されカスティーリャの領土となったことを記念するデモが行われる。今年のバルセロナでは、国民としての自由を求める80万人の人々が集まった。 

 参考資料

The PSOE and the PP, flying blind into crucial Congress vote which could decant Spain’s political future (elnacional.cat)

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/MEMO_13_825

The EU postpones the vote on the official status of Catalan due to a lack of agreement (elnacional.cat)

Yolanda Díaz meets with Carles Puigdemont, promising to “explore all democratic solutions” (elnacional.cat)

The Good Friday Agreement, the self-determination model preferred by Puigdemont (elnacional.cat)

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