堺市教委「喫煙者を実名で報告せよ」-公務員に忠誠義務を課すのか
6月1日、堺市教育委員会(大阪府)は学校敷地内での喫煙があるという市民からの通報があったとして、市内教職員全員に対して、この2年度間における本人喫煙の有無、喫煙者現認の有無について緊急調査を行った。喫煙者を現認した場合はその実名を報告せよという。そして回答は任意ではなく必須とされており、回答しない者には拒否理由を聞くという。通知sboe1及び回答用紙sboe2
学校をはじめ公共施設における喫煙禁止は広く見られるところであるが、喫煙者を「密告」せよという通知が出されることはまずない。ましてや教育の場において、仲間・同僚を売ることが強制力を持って行われることは全国あるいは世界中でも見られない。古い言い方をすれば武士道・騎士道に反すること、すなわち人の道に外れた所業である。すでに多くの教職員が回答した報道されたが(https://www.asahi.com/articles/ASL6M72XHL6MPPTB00V.html?iref=com_alist_8_02)、決して仲間を売るような回答になっていないことを願う。
堺市の教職員は地方公務員であるが、このような調査に応じる義務はない。公務員には職務専念義務が課せられているが、忠誠義務までは求められていない。民間企業労働者には企業にたいする告知・説明義務、企業秩序遵守義務、守秘義務、競業避止義務があるが、それでも企業への忠誠義務はない。つまり、官民を問わず、労働者には使用者に対する忠誠義務はないのである。それは労働者と使用者は労働力商品の売買関係にあり、この関係を超えた主従関係にはないからである。
ナチスは、労働力商品すなわち労働契約を否定して「共同体思想」すなわち「雇用者と被雇用者との関係は共同体関係」であるとしたが、それでも労働契約の存在を認めざるを得なかった。そして労働契約にあっては、「彼らの雇用主が勝手に決めたどんな仕事もしなければならぬ義務はない」とされたのである。
堺市教委の喫煙調査は、労働力商品の売買関係である労使関係をこえて、主従関係の発想に基づくものである。それは、ナチスでさえできなかった労務政策である。調査中止と回答用紙の廃棄が行われるべきだ。
(公務員の忠誠義務、ナチスの労働観については、本ブログ「労働運動・労働組合」ページ所収「労働組合の本質」第5章第2節、第10章第2節を参照されたい)。