氷河期は終わっていない―宝塚市職員採用に関して
11月18日、宝塚市が「就職氷河期世代」を対象にした職員採用結果を公表した。1,816人が応募して、4人が採用内定した。宝塚市の中川智子市長は自治体・民間企業にも広がるよう働きかけるという。
しかし、採用倍率が450倍であることを考えると、氷河期は終わっていないことは明らかだ。応募して落された者は1,812人である。市長は、これらの人の気持ちを考えたことがあるだろうか。20年たって、またしても落とされたのである。
筆者の知り合いは、「市長は氷が解けたと思ったのかな」とポツリと述べた。
足元の非正規を採用せよ
その宝塚市でも、非正規公務員(非常勤職員、嘱託職員など)が数百人働いている。就職氷河期世代を支援するというのであれば、まずこれら非正規職員を正規採用することから始めるべきだ。地元のことを熟知して、仕事も正規職員以上に理解しているのだから。
いきなり正規採用をするのが難しいのであれば、任期を定めない非正規雇用(任用)という方法もある。
行政の劣化
非正規公務員が増えた原因に、自治体の財政難にともなう人件費削減政策がある。人件費が減ったから住民対応の仕事を減らすことができないことから、いきおい非正規を採用して業務に当たらせることになった。非正規といっても公務員であるから1年未満の雇用(任用)であり、民間企業のような契約更新は法的に認められていない。確かに実質的には継続されているが、次年度に継続される保証がない非正規公務員にとっての人生は不安定である。
他方、これら非正規公務員が住民対応の窓口業務に当たらされることが多い。とりわけ、住民の苦情を受けるフロントにである。そして、正規職員はバックにさがり、やがて幹部に上っていく。このような構造が数十年続くとどうなるのか。住民に対応したこともない、フロントで苦情を受け付けたことがない、そして住民の要望も聞かないまま育った職員が幹部となって行政を切り盛りすることになる。行政が劣化する一因である。
国による非正規増大・不安定雇用拡大
就職氷河期世代だけを対象とするのでなく、採用に当たって年齢制限を廃止する流れが出来てきている。また、自治体によっては優秀な非正規職員を継続雇用したいために、さまざまな採用形態を作り出し、実質的な継続雇用を実現してきたところもある。
ところが、国は地方公務員法等を改正して、非正規職員を「会計年度任用職員」という地位に一本化して、継続雇用(任用)ができない仕組みを作った。こうなると、ただでさえ人手不足の今日、人が民間に流れるのを止めることはできなくなる。国・自治体は市場からしっぺ返しを食らうであろう。
現に働いている非常勤・臨時・嘱託などの非正規職員の地位安定と待遇改善こそが、厚い氷を解かしていくのである。
参考資料