羊頭をかけて狗肉を売る―橋下徹の「新・沖縄独立宣言」
2019年1月、「沖縄問題、解決策はこれだ! これで沖縄は再生する。」と題する本が出版された。著者は橋下徹元大阪府知事・大阪市長(以下「橋下」)で、出版社は朝日出版社(朝日新聞社等と関連なし)である。「今ある問題を解決させ 沖縄の明るい未来を実現させる 画期的なヴィジョンを示した 新・沖縄独立宣言!」と紹介されている。
橋下徹元大阪府知事・大阪市長は責任取らずの理想なき政治家であるから、その言動は無視するに限るが、「新・沖縄独立宣言」との宣伝文句があるため読んでみた。
執筆ぶりからすると、沖縄での講演記録であるようだが、人が好かない自慢話をえんえんと書き連ねている。大阪府知事・市長として大阪を再生させた、閑古鳥が鳴く関空に人をあふれさせた、地下鉄「なにわ筋線」事業着工を決定させた、2025年大阪万博を誘致した、などなどである。そして、この大阪での成功談をもって、沖縄再生のビジョンと実現方法を指南するというのが本題である。インテリ、学者、力のない政治家たちは沖縄問題を語るだけで、その問題の解決策をしめさないが、橋下は違う、という。
橋下の沖縄再生策とは、沖縄ビジョンXと銘打ったプランを実現するというものである。
沖縄ビジョンXとは何か。普天間基地を返還させて、跡地にカジノを含めたIR(総合型リゾート)を誘致する、そのためには辺野古移転を早急に実現する、那覇から中部を通って北部につながる南北鉄道を敷設するというものである。この沖縄ビジョンXを実現するために、日本政府と本土国民を動かす必要があるので、「沖縄独立」「中国政府に沖縄の港を貸す」ことをぶち上げる、もちろん本当に独立等を考える必要はなく、あくまで日本政府を動かすための「ケンカ」である、という。
このように、橋下の沖縄再生策とは、沖縄独立でもなければ、もちろん基地撤去でもない。沖縄を活性化させるためには基地と共存すべきとする。さらに、沖縄基地問題を解決するためには、地元住民に住民投票をさせずに「米軍設置手続き法」なるものを制定して、中央政府が一元的に米軍基地設置を決定するこができるようにするという。この「手続き法」は原発の使用済み核燃料最終処分場設置にも応用できると自画自賛する。
「新・沖縄独立宣言」という仰々しい宣言文句と正反対の橋下ビジョンである。公有地を民間資本に開放し、ギャンブルのあがりを納税(上納)させて街を潤わせ、地元住民が街づくりに参加できないように中央集権を強固にする、日本政府には「沖縄独立」の脅し文句で橋下ビジョンに賛同させる、のである。
他人の自慢話ほどくだらないものはない。本書は事情を知らない人にとっては自慢話で済むかもしれない。しかし、橋下知事・市長の行政実態はとても自慢できるものでないことは、筆者山下が組合役員として対決した橋下維新政治で経験済みのことである。
その一例が、下記に示す大阪府の借金状況である。橋下知事が誕生した2008(平成20)年以降、大阪府の借金残高は増えたのである。関空再生、万博誘致などの自慢話も眉唾物である。
沖縄問題の解決は基地撤去にあり、そのためには沖縄独立が不可欠である、と声を大にして言いたい。